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車椅子利用の海外旅行記 イタリア編(ヴェネチア~フィレンツェ)
今回は、車椅子(自走式)を利用している自分の家族を案内して、ヴェネチアとフィレンツェへ行った旅行を、「車椅子での旅行」、という視点で綴った記録です。結論から申し上げると、車椅子を利用しての旅行を十分に楽しむことができたと思います。
筆者自身は仕事などで何度も海外を訪れておりますが、両親はほとんど海外旅行をしたことがありません。母親が車椅子を利用するようになってから10年以上が経ちますが(数メートルの距離であれば歩行器を利用しての移動や伝い歩きが可能)、団体ツアーに参加するのが難しいことと、両親だけで海外の個人旅行をするには言語の面などでもハードルが高すぎるのです。
「いつか両親を海外旅行に案内したい」という思いから、両親にとっての「最初で最後(?)の海外旅行」、というつもりで、数年前にパリとウィーンへ案内しました。初めての海外旅行、しかも車椅子利用での旅でしたが、とても楽しかったようで、「いつかまたヨーロッパに行きたい」という希望をもらっていました。そんな中、再び機会があり、今回、両親と新たに叔母を連れてイタリアへ行くことになったのです。
行き先はイタリア中心に決定!どの街なら楽しめるかを考えた結果。
イタリアには魅力的な田舎町が沢山あって、小さくて可愛らしい町々を案内したいのはやまやまでしたが、「海外旅行にほとんど行ったことがない両親と叔母が楽しめる街」、そして「車椅子で安心して楽しめる街」、そして筆者の「休暇の日数」を考えると、候補になったのはまずフィレンツェでした。
*街自体が大きくなく、中心部に見どころが集まっていること。
*美術館や教会など、見るべき場所が沢山あること。
*ホテルの選択肢が多く、中心部に宿泊すればホテルを起点に車椅子でも観光がしやすいこと。
*車椅子を利用している本人の嗜好(美術館見学や、美味しいものを食べたりするのが好き)。
などが、フィレンツェを選んだ理由です。
ローマやミラノもイタリアを代表する都市ですが、車椅子で廻るには少し街が大きすぎ、見どころが点在している為、車の手配などが必要になってきます。そのため、今回は訪問地の候補からは外しました。
フィレンツェ一都市の訪問でも良かったのですが、折角行くなら、イタリアらしい風景のもう一つの代表とも言えるヴェネチアも見て欲しかったので、ヴェネチアからフィレンツェへ向かうルートとしました。当初、ヴェネチアは車椅子で訪れるには他の都市と比べてハードルが高く、迷う部分もありましたが、だからといって諦めてしまうには勿体ないと思えるくらい魅力的な街だったからです。
車椅子でのヴェネチア訪問。心配だった点と、その解決策。
ヴェネチアには何度も行ったことがある筆者でしたが、車椅子での訪問は初めてです。心配な点として考えられることは下記でした。
1)運河が多く、階段付きの橋が多いヴェネチアでは動ける場所が限られるのではないか。
2)ヴェネチア空港からホテルまでの移動はどうすれば良いのか。
3)ヴェネチアでの観光に無理はないのか。
4)最終的にサンタルチア駅まで移動する際の交通手段。
1)「車椅子で動ける場所が限られるのではないか?」 の解決策
確かにヴェネチアには運河が多く、階段付きの橋が多いヴェネチアでは車椅子では通れない道なども出てきます。極力、見どころの中心となる場所(サンマルコ広場周辺)に近く、その周りだけ車椅子で巡ることができ、ヴェネチアらしい風景を存分に味わえる場所にホテルを選ぶ必要がありました。
ホテルを起点にすれば、観光の途中で一旦、お手洗いを使いにホテルの部屋に戻ったり、疲れたら一度戻って休憩し、再び出かけることも可能です。その為、ホテルの立地を最大限に活かせる場所として、サンマルコ広場近くのホテルを選びました。
別の記事でも紹介した「MONACO&GRAND CANAL」を選んだのは、その理由もあったからです。ホテルには予めコンタクトを取り、ホテルまでの移動途中と館内に関して、車椅子での訪問時に問題がないかどうかを確認しました。(例えば、ホテル内に入ってから部屋までの移動に段差がないかどうか、室内での車椅子の利用に支障がなさそうかどうかなど。)実際、ホテルまでの移動や館内、室内ともに車椅子での利用に問題はありませんでした。このホテルを選んだことで、ホテルを起点にドゥカーレ宮殿やサンマルコ寺院や広場の見学などに出かけることができ、とても便利でした。
また、ヴェネチアのアクセシビリティ・マップが見られるサイトもあり(英語版)、どのあたりであれば車椅子での走行が可能かがわかる地図も公開されていたので、参考にしました。
2)ヴェネチア空港からホテルまでの移動。選んだ手段は・・・。
この移動に関しては、とても悩みました。なぜなら、ヴェネチア島内には車の乗り入れができず、必ず何らかの船を利用することになるからです。このことも、車椅子でのヴェネチアの訪問のハードルの高さでした。
調べてみると、台数は少ないものの、昇降機付きのプライベートタクシーボートが存在することも分かりました。色々と調べたものの、結局、昇降機付きタクシーボートを扱っている現地の会社名が分からなかったので、宿泊予定のホテル(MONACO&GRAND CANAL)のコンシェルジュに問い合わせを入れました。ホテルの回答はとても親切で、送迎サービスの手配も可能で、「空港から車椅子用のリフト付きのミニバンと昇降機付きのタクシーボートをセットすることもでき、その場合は片道大体320ユーロ前後かかります」との回答でした。また、同時に、「ALILAGUNAの水上バスにも車椅子での乗船が可能で、その場合の所要時間は80分程で、一人15ユーロほど。サンマルコ広場の船着き場で船を降り、広場を通って来れば車椅子での移動も可能ですよ。」と教えてくれました。
それならば、ということで今回は両親とも相談の結果、ALILAGUNAを利用しました。
結果は、何の問題もなく、ボートタクシーと比べても船自体が大きい為、桟橋から船への乗り降りの際も、安定した板が渡されて固定されるため、車椅子を押す介助者が1名いれば、安心して車椅子で乗船することができました。サンマルコ広場で船を降りてからは、サンマルコ広場を通り抜けてホテルまで移動しました。(少し遠回りにはなりますが、このルートだと階段付きの橋を通らずにホテルまで移動できます。)
3)ヴェネチアでの観光に無理はなかったか。
この点は、正直なところ、どこを観光するかにもよります。車椅子の利用では、通ることができる橋が本当に限られる為、通れない道も多くありました。ただ、サンマルコ広場やドゥカーレ宮殿、ヴァポレットに乗って、リアルト橋周辺にも行くことができました。
朝の散歩では、サンマルコ広場とそこから続く小広場、スキアヴォーニ河岸を少し歩きました。ドゥカーレ宮殿は、車椅子利用の場合は係員がエレベーターで上の階まで案内してくれます。4階の見学フロアを回り、再び係員に声をかけると次の場所に案内してもらえました。エレベーターで案内してもらうことができたおかげで、主な館内の見どころはほとんど見ることができました。
その他、ヴァポレットでリアルト橋周辺まで移動して魚市場も訪れましたが、こちらも問題なく車椅子で散策することができました。
4)ヴァポレットでサンタルチア駅へ移動。
ホテル近くのヴァポレット停留所から車椅子で乗船しました。ヴァポレット内には車椅子を利用している方の優先スペースがあり、自分たち家族以外にも、車椅子で乗船している外国の方を見かけました。サンタルチア駅のFERROVIA S.LUCIAで下船すると駅はすぐ目の前です。駅構内に入るまで少し段差がありますが、スロープもあるので車椅子でも問題なく入ることができます。駅構内に入ると、段差はほとんどありません。
車椅子で鉄道に乗車し、ヴェネチアからフィレンツェへ。
ヴェネチアからフィレンツェまでの鉄道移動は、さらにハードルが高く感じていましたが、実際には、事前に鉄道会社への依頼をしておけば、サポート体制も整っていて、車椅子での鉄道移動も問題ないことが分かりました。今回はイタリアにある旅行会社にお願いし、事前に車椅子を利用することを伝えて上で鉄道の予約を入れてもらいました。
ヴェネチアからフィレンツェまではイタロ(ITALO)やイタリア国鉄(TRENITALIA)のフレッチャロッサ(FRECCIAROSSA)、フレッチャアルジェント(FRECCIARGENTO)などを利用すれば、2時間15分程度で到着できます。いずれも車椅子を利用する方用の席がありますが、今回はイタロ(ITALO)を利用しました。
イタロのホームページで確認すると、すべての列車には、車椅子を利用する方用の席スペースがあり、その近くには車椅子のまま利用できるお手洗いがある旨の記載があります。実際、今回利用した席もお手洗いに近い席で、安心して列車に乗ることができました。(車椅子利用の本人以外は、その席から少し離れた席の利用となりました。)
心配した列車の乗り降りですが(ヨーロッパの列車ではホームから階段を数段上がって列車に乗り込むケースなども多いので)、こちらも問題ありませんでした。主要駅に置かれている「SALA BLU」というRFI(イタリア国鉄のインフラ管理会社)が提供する支援サービス窓口があり、こちらに事前に伝えておくことで、ヴェネチアでの乗車時間にあわせて、スタッフがフォークリフトのような昇降機で車椅子ごと乗り口の高さまで運んでくれました。ヴェネチアのサンタルチア駅には駅のホームの近くに「SALA BLU」のオフィスがあり、列車の時間より早めに行ってそのオフィスで乗車する列車を再度伝え、オフィス内で待たせてもらうこともできました。
フィレンツェの到着時は、「SALA BLU」のスタッフが来てくれているか心配でしたが、乗車した号車番号にあわせてスタッフが来てくれており、乗車時と同じくフォークリフト式の昇降機でホームまで降ろしてもらいました。
まとめ
周囲のサポートや介助者の存在も大きかったと思いますが、事前に、しっかりと計画を立てて手配をしておくことで、ある程度快適に車椅子での旅行ができたと思います。ホテルを選ぶ際、都市部の一定クラス以上のホテルには、アクセシブルルームが整っているところも多いので、事前にホテルに確認のうえ、部屋の指定をしておくと安心です。設備面だけでなく、立地なども考えてホテルを選ぶことで、行動範囲が広がったり、利便性が上がるので、併せてホテル選びのポイントとしていただくと良いと思います。
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